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随筆
 

果たして科学は本当に人類を幸福にするか?の話




美術全集を見ていたら、風刺画家のドーミエの作品に「科学者の 妄想」というのがあった。それには累々と横たわる死体を眺めて、 にやりとほくそ笑んでいる科学者らしき一人の男の姿が描かれてい た。

科学者が大量殺戮を夢想しているという、ドーミエらしい洞察の 本当の背景は知る由もないが、当時も戦争の手段として近代的な兵 器開発が彼らの手によって進められていたことは疑いようのない事 実であったろう。

最先端科学の需要の多くが軍事産業であることは現代の世界的コ ンセンサスであろうと思うし、かっての日本もその例外ではなかっ た。明治時代にドイツ医学が幅を利かしたのも当時の政府が軍事医 学の早急な導入を目指したがためであった。

当然、この当たりを勘案すれば伝統的皇漢医学では当時の富国強 兵の施策には馴染まないのは誰の目にも明らかであったろう。いま のような平和な状況にあれば、国民一般の東洋医学指向は多少強く なるであろうことは頷けるところである。

今後は国内治安が急速に悪化すればたちどころに軍事外科学が幅 を利かすであろう。まあそれはそれで妥当なことであろうと思うが、 これまで医学をも含めて科学技術は決して個人のものではなくて、 常に国家機関のコントロールがなされるものであった。

要するに「すべからく科学技術は国防に資する」という軍国主義 的大義名分が幅をきかせていたわけである。太平洋戦争中の細菌部 隊や化学兵器部隊の存在が明らかになってくるに従って、多くの第 一線の科学者らがそうした作業に強制的に関係を持たされていたこ とがわかる。

科学には確かに真理追究のロマンがある。 今世紀初頭ドイツの 科学者の中には宇宙に向けてロケットを打ち上げる夢をもって地道 な研究を続けていたグループがあった。これに目を付けたナチス・ ドイツは、新兵器に転用できる科学技術としてロケット研究を高く 評価した。

そして瞬く間に無人爆撃機、さらにはV2号ロケットへと作り替 えていったわけである。ヒットラーの期待に応えて、完成したV2 号ロケットは次々とロンドン市内に打ち込まれ市民を震え上がらせ た。このロケットには画期的な姿勢制御装置(ジャイロ)がすでに 搭載されていた。

ドイツ敗戦時、連合国側のアメリカとソ連の軍隊はこのV2号ロ ケット施設を競って接収した。ここで工場設備はもとより、開発や 製造に従事した科学者や技術者数千人を拘束しそれぞれの国に移送 したという。

大戦後判明したことであるが、当時のドイツの科学技術水準は他 国を大きく引き離していたわけである。その後の米ソの宇宙競争を 支えたものは、まさにヒットラーの遺産ともいうべきものであった。

同じように日本軍のの細菌兵器データはアメリカ国防省が戦後すべて を掌握した。当然のことながら、科学技術というのは開発過程にお いて莫大な時間と経費がかかる。それらの資金を得るためには、補 助金や研究開発をバックアップしてくれるスポンサーが必要になる。

欧米にはそうした背景が伝統的にあったから、王侯貴族のもとで の詐欺まがいの錬金術でさえ盛んに行われた。

イタリア・ルネッサ ンス時代の巨匠といえば、「モナリザ」の作者であるレオナルド・ダ・ヴィンチが有名であるが、彼は優れた画家であるだけでなく、建築、 自然科学、解剖学、天文学、機械工学、さらに地理学や数学まで幅 広い分野にわたって卓越した才能を発揮した。

ダ・ヴィンチは二万ページに及ぶ研究ノートを書き残したが(三分の 二は散逸した)、その中ではすでに自動車や自転車、飛行機、ヘリ コプター、ボールベアリング、変速機、歯車といったものを考え出 していたことでも知られる天才的人物である。

しかしその彼でさえも自分を王侯に売り込み、有力なスポンサー を得るためには手段を選ばなかった。ミラノ公、ロドビエ・スフォ ルツァにあてた手紙には、大量殺戮兵器の設計を示唆しながら、 「兵器の大家、設計者と自負する人のものはありきたりである。私 はいろいろな兵器が作れるから一度会っていただきたい」と、兵器 の開発に貢献できることに言及して巧みな就職活動をやっている。

事実彼の残した設計図の中には、馬車に回転する刃を装備して走りながら敵兵を切り倒すものや三段式連射砲、無数の大砲を装備した戦 車などもある。さらには水を入れた巨大なフラスコをレンズにして 太陽光線を集め、一度に多数の敵兵を焼き殺す光線兵器のアイデア も詳細に記録している。

その驚くべき発想には、皮肉にも近代の殺戮兵器をも彷彿とさせ るほどの空恐ろしさが伴うものであった。

20世紀アメリカの原爆開発(マ ンハッタン計画)にしても二十億ドルの莫大な経費と十三万人もの科学 技術者が短期間に投入されたわけである。

莫大な経費の掛かる不毛の兵器開発は結局この原爆というものに 集約されるわけであるが、核実験が国際世論からいかに非難されよ うと、国防というスタンスが現実に存続する以上今後もどこかで強 行されるはずである。かってアメリカのネバダ州で初めて核実験が 成功したとき、あのオッペンハイマー博士はわが手を見つめて「これで私も死神にな った」と呟いたという。

科学者は常に死神の最も近くに立っていることを肝に銘ずるべき であろうし、常にそうした道義的責任を持つべきである。古代の宗 教儀式では、神に差し出す生け贄として時には人の命が奪われるこ とがあった。 これは豊饒という人間の飽くなき欲求のうちに、さ さやかな生け贄が用意されたわけであるが、これを野蛮というべき か否かは問題ではない。

人間の営みのうちに、必然的に犠牲者があることは事実であるし、 科学という恩恵のうちにも人類は大変なリスクを背負っている。本 日ムルロア環礁でフランスの核実験が行われたとのニュースを聞く。

(H7・9・6)

2000年4月21日、ロシア保健省は1986年4月のチェルノブイリ原発事故の事故処理に従事した作業員の内、これまでに3万人が放射能被曝で死亡したという衝撃の事実を公表しました。
さらに、5日後の2000年4月26日の14周年追悼式典での発表では、ロシアの事故処理従事者86万人中、5万5千人が既に死亡したとも報告されました。
ウクライナ国内(人口5千万人)の国内被曝者総数342.7万人の内、作業員は86.9%が病気に罹っているともいいます。



2005年10月31日 ●ポリネシアで放射能汚染か フランス核実験の環礁近く
【シドニー30日共同】ニュージーランド紙ドミニオン・ポストは30日までに、1990年代半ばまでフランスが核実験を行っていた南太平洋のムルロア環礁(フランス領ポリネシア)近くの島で、高レベルの放射能汚染が報告され、住民が相次いで治療などを受けていると伝えた。 同紙によると、放射能汚染が報告されたのは、ムルロア環礁の北北東約115キロのトゥレイア環礁。約100人が住み、有人の島としてはムルロア環礁に最も近い。多い時には一日に5人の住民が「放射能に関係したとみられる病気」のため、ニュージーランド北部の病院で診断、治療を受けているという。
ポリネシアのテマル行政長官は同紙に対し、フランス政府が核実験による健康や環境上の影響を隠ぺいしていると非難。


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